「信仰」と「仕事」の統合を目指して

[クリスチャン誌 月刊「舟の右側」2019年7月号に掲載されたものです]

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クリスチャン一人ひとりが人生の大半を過ごす職場でキリストの光を輝かせるようにとの願いから始まった「Lightプロジェクト」。創設者でディレクターのサックス知子さんに、どのような思いと信仰で、この働きを始めたのかを聞いた。

―以前は、どんな仕事をしておられたんですか。

知子:約30年、主にサラリーウーマンとして働きました。最初はセールス関係で、日本で外資系石油会社、中国で日系商社、アメリカに移って日系鉄鋼会社、そしてマーケティングに転向したいと思い、アメリカでマーケティングのMBA(経営大学院修士)を取得した後、外資系ハイテク、外資系通信ソフト・ハード、外資系搬送設備の会社でマーケティングを担当しました。職種としてはアシスタントから管理職まで、会社の規模は起業から大企業まで、伝統的な会社から社長と対等に話せるフラットな会社まで経験しました。また、日本と海外、出張もいろんな国に行ったので、様々な会社のスタイルや文化も体験しました。

―そうした中でクリスチャンになったんですね。

知子:仕事が大好きで、「権力・お金・名声」を求めてMBAを取った後、アメリカの会社に就職しました。しかし、上司との人間関係が原因で、1年で仕事を辞めました。その時、詩篇23篇2節「主は私を緑の牧場に伏させ、いこいの水のほとりに伴われます。」にあるような、ある方と一緒にいる幻を見て、こんな素晴らしい幸福を経験したことがない、と思いました。その幻を見て、このお方(クリスチャンになってから、キリストだと分かりました)と一緒にいるだけでいい、今まで求めていたものは何もいらない、と思いました。その時から人生が変えられていきましたね。その一年後に、今の夫のスティーブに出会いました。最初は彼を「神に頼る弱いクリスチャン」と思い、その世界から救いだしてあげようと思って、彼のやっているバイブルスタディーや教会に通いましたが、そのうち私の方がクリスチャンになりまして(笑)、その後は、詩篇23篇の続きのような人生を送っています。

―クリスチャンになって、仕事はどう変わりましたか。

知子:クリスチャンになった時は失業中でしたが、すぐに新しい仕事が与えられ、アメリカから香港、2年後に日本に転勤となって帰国しました。アメリカや香港では社内にもクリスチャンがいましたし、途中で会社がイスラエルに開発本部がある会社と合併し、ユダヤ人の同僚が与えられた関係で、いつも自分がクリスチャンであることを意識していたように思います。また、教会に通い、スモールグループにも入り、お祈りや学びもしていました。 とは言っても、仕事が大好きで、優先順位は、1、2、3が仕事、4に夫、5に神様、という感じでした。信仰と仕事を切り離して、二重生活をしていたと思います。その6年後、リストラに遭い、職を失いました。リストラされたのはショックでしたが、神様には何かご計画があると確信していました。仕事を失ったことで、これまでいかに仕事に自分のアイデンティティーを置いてきたかということに気づき、やっと神様を一番の優先順位にできるよう、神様が私を変えてくださいました。そして、仕事としては、少し前から始めていた未信者向け宣教プログラムを優先順位の一番にできる仕事を求めて祈り、次の仕事が与えられました。この時、私の召しはテントメーカーとして主に仕えることだと確信しました。 そしてこの頃は、仕事と信仰の統合をはかろうと苦戦した時期だったように思います。つまり、福音に立ち返って〝神に栄光を帰す〟ことは何かを考えながら仕事をし、同時に、〝仕事での成功〟という誘惑と偶像が常につきまとうという、その両方がある時期でした。

―Lightプロジェクトを始めるきっかけについて教えてください。

知子:2014年にまた職を失うことになりました。自分の召しは何か、神の御国の拡大に直接関わる仕事を、と神に祈り求めていた時、グレースシティーチャーチ東京のSALT(Servant And Leadership Training)プログラムの「信仰と仕事ミニストリー」の仕事を牧師から提示されました。その時、神様がLightプロジェクトのビジョンを私に与えてくださったのです。 教会で働く人の訓練の機会は、神学校をはじめとしてたくさんありますが、社会で働くクリスチャンへの訓練や学びの機会は、ほぼ皆無に近いのが現状だと感じました。私は長年サラリーウーマンとして働いてきたので、一般社会で働くクリスチャンに思いがあって、特に、仕事の意味や仕事への召しに悩んでいるクリスチャンを助けたい、訓練の機会を提供したいと思いました。

―Lightプロジェクトのコンセプトについて教えてください。

知子:マタイの福音書5章14節で「あなたがたは世の光です」と言われているように、クリスチャンがイエスの光を世で輝かせることができるよう応援するため、このプロジェクトを立ち上げました。トレーニングコースでは、創世記1章1節「はじめに神が天と地を創造された。」から、神ご自身が初めに仕事をされていたこと、その仕事は神の目に非常に良い、喜びとして造られたということを、まず学びます。そして次に「仕事に対する神の計画」を学んでいきます。仕事は良いものとして造られましたが、罪による堕落の結果、労働は苦しいものとなりました。しかし、イエス・キリストの贖いにより、私たちクリスチャンは、仕事を通してこの世に神の回復をもたらす、という使命に召されています。このことを私たちは、Lightプロジェクトの根幹にしています。

―働きを始めるにあたって準備したことを教えてください。

知子:思い返すと、すべての準備を神が整えてくださっていたことがわかりました。セールスやマーケティングで培ったプレゼン、トレーニング、戦略、予算、プロジェクトマネージメントなどのスキルも、仕事での成功も失敗も、すべてが役に立っています。また、宣教プログラムの経験、SALTでの学びやミニストリーのトレーニング、福音刷新の学びやメンターとしてのトレーニング、新しい教会開拓への支援や学びなども、すべてが今の働きへと私を準備し、整えるものでした。 「信仰と仕事」のミニストリーは、欧米が進んでいるので、アメリカのリディーマー長老教会(ティム・ケラー牧師)の「信仰と仕事」センターでトレーニングを受け、諸外国の牧師たちやプログラムからも学びました。さらに、この働きに興味のある社会人クリスチャンの方々とチームを作り、祈りをもって一緒に準備をしていきました。また、この働きの活動費は全て献金によって賄っていますが、開始直前にアメリカから多額の献金をいただいたことで、一気に士気が高まりました。(笑) さらに不思議なことは、それまで連絡しても繋がらなかった私のメンターご夫妻が、東京に引越しをするように神様に導かれたとのことで、丁度このプロジェクトを始める時からずっとメンターとして一緒に祈り支えてくださり、霊的な土台も整えられました。また、少し後になりますが、私が「七人のサムライ」と呼ぶ祈りの戦士たちがアメリカで与えられ、このプロジェクトのために毎日誰かが祈ってくださるという支えも与えられています。

―この働きをする中で、多くのクリスチャンが持っている信仰観、仕事観について気づいたことがあれば教えてください。

知子:一般社会で働くクリスチャンは、仕事について教会内で話したこともなく、特に仕事上の悩みについては「信仰が弱い」と言われそうで話せない、というのが現状のようです。多くのクリスチャンは、そのような悩みと葛藤しているものの、それを話す場所がなく、そんなことで悩んでいるのは自分だけだと思っているようです。さらに、忙し過ぎて、とにかく仕事を片付けるのが精一杯、信仰と仕事はとりあえず分けている、という方も多いと思います。また、仕事観としては、「仕事は堕罪した人間への罰であり呪いであるから、苦しいのが当たり前」とか、「宣教師や牧師のような聖職だけが神に仕える仕事であって、一般社会の仕事は、現金収入の手段として仕方なくするもの」という誤った認識も、時には見受けられます。 その背景には、そもそもクリスチャンの絶対数が少ないので、信仰と仕事を統合している良い見本が周囲に少ないことが挙げられるかもしれません。「聖職は聖いもので、世の仕事は俗なもの」という、ギリシャ哲学の聖俗二元論に影響された考えもあります。さらに、月曜から金曜は世の価値観で生き、日曜日は教会の価値観で生きる、という、二重生活という別の二元性も、あります。仕事観が歪んでしまっているのです。 しかし、宗教改革でルターやカルヴァンが聖書によって仕事を正しく解釈し直したように、今の時代においても、一人ひとりが仕事を聖書から正しく解釈し直す必要があるように思います。私たちのトレーニングコースの基礎コースを受講する方々の中には、一般の社会人と牧師の両方がおられますが、誰もが多かれ少なかれ、「信仰」と「仕事」を分けて考える様々な二元性にいかに影響されていたかに気づかされます。そして、仕事を偶像化することへの悔い改めの必要に気づきます。仕事そのものが神から与えられているものであり、尊いものであると気づかされ、本来神が意図された仕事観に戻るように促されるのです。

―現在、神様から示されていることがあれば教えてください。

知子:2017年11月にLightプロジェクトをスタートした時は、東京でしっかり実を結んでから他の地域にも広めようと思っていましたが、2018年には協力してくださる牧師先生方、そして多くの参加者を送ってくださって、名古屋でもコースをスタートすることになりました。同様に、2019年からは神戸でもスタートするように導かれました。神様から、「もっと大きな視野、もっと大きなビジョンを持ちなさい。」と言われているような気がします。 そして、神様の導きについていくことが大切だと示されています。私自身は、完璧主義でもあり、これまで働いてきた経験から、自分で戦略を立ててガンガンやってしまう傾向があります。しかし、神様の導きに対して、先に進むことも、後に遅れることもなく、ぴったりついていく、ということを学ばされ、経験しています。 また、他者の助けを受ける、ご協力を募っていく必要性も感じています。様々な教会と、共に協力し合い、祝福し合い、イエスの弟子を訓練して神の国を拡大していけたらと思います。社会で働くクリスチャンが、イエス・キリストの輝きをもっともっとこの地で輝かせることができるように、神様が導き、大いに祝してくださっていることに感謝しています。


 
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サックス 知子

Lightプロジェクト ディレクター

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